開催概要

第11回直立歯科医学研究大会
『ヒト直立から見た歯科医学』
~頭頸部の機能障害はヒトの立つ仕組みに起因する~

<日時>

2015/09/20 13:00 ~ 2015/09/21 16:00

<場所>

東京医科歯科大学 鈴木章夫記念講堂

<参加申し込み>

9月16日以降は当日受付となります。事前のお申し込みは不要ですので直接会場へお越しください。

<スケジュール>

20日
13:00 開会 会長挨拶
13:10~14:50 【総論】(臼井 五郎)
休憩
15:00~16:20 胎児期~咬合誘導(岩前 里子、熊谷 倫恵)
休憩
16:30~17:10 矯正の立場から(香川 正之)
17:10~17:50 DS治療による不定愁訴の改善(松井 啓祐)
休憩
18:00~18:40 高齢期…仙腸関節の固着化に伴う病態と義歯の臨床(峰村 久憲)
19:00~ 懇親会
21日
9:30~10:30 教育講演 伊藤 学而先生
休憩
10:40~12:10 教育講演 吉田 勧持先生
昼食・総会
13:10~14:00 MDA ~顎位是正しながら咀嚼もできる唯一の装置~(寺尾 公成、宮路 秀則)
14:00~15:10 会員発表(1題発表15分、質疑応答3分)平沼 克己、有村 由紀、宮本 格尚 [座長:下向 央] フットビュー・デモ 質疑応答
休憩
15:30~16:00 総括講演
閉会

大会長挨拶

寺尾 公成

動的平衡・顎口腔医学研究会会長

下向 央

第11回直立歯科医学研究大会大会長

直立歯科医学研究大会のご案内

動物は食べないと生存できません。従って動物であるヒトの顎口腔の主機能と言えば 「摂食」「咀嚼」「嚥下」と言えます。咀嚼機能の維持・回復が現在までの歯科医学・医療の対象となっているのは当然のことでしょう。動物の中でヒトに限っては直立しているため「平衡を維持する」ことが生存のための必須条件として加わってきます。

「立っている」ことは当たり前のことであり、特定の器官に依るものではなく全身の平衡システムによって成り立っているため、顎口腔系が平衡維持に深く関与していることは気付きにくいことです。以下の通り、顎口腔系は咀嚼器官であると同時に平衡器官でもあります。歯科医学・医療の対象は「平衡」という全身と関連した機能を含むわけで、新たな概念による歯科医療は人々の健康に更なる貢献ができると思います。

人体を直立した物体と見なすと、1キロの重さの下顎骨は頭蓋骨から吊り下がっていて、超高層ビルのダイナミックダンパーのように平衡に関与しています。ヒトの体(上顎と下顎も含め)は人それぞれ固有の揺れ方で揺れることで平衡を維持しています。固有の揺れに伴い歯の干渉が持続すると歯に対しては歯科疾患が発生します。歯の干渉によって体は平衡が崩されるため体を捻ることで平衡を維持します。捻れが持続すると循環障害、神経・筋の異常、骨格の変形などが生じ、医科的疾患を発生させる可能性があります。

本研究会の臼井は長年の臨床経験に基づき、顎口腔系の平衡維持の仕組みを解明し、直立平衡の診断法と術式を約2年前に確立しました。

立位による顎位診断後、上下顎の揺れのシミュレーションをし、適切な咬合高径確保と直立に伴う歯の干渉を除去することにより、多くの会員の診療所で歯科的諸問題の解消や医科症状の改善・消失が確認されています。またその際の平衡の改善は足圧分布測定システム(フットビュークリニック)を使用することにより客観的データとして証明できます。

今回の大会一日目は、新しい咬合概念である直立平衡歯科の解説と会員による臨床の発表をいたします。出生前期から直立末期まで人の一生に対応できる直立平衡歯科医療の理解によって、実践への第一歩にして頂けるよう演者一同張り切って準備を進めております。

2日目は鹿児島大学名誉教授の伊藤学而先生、日本構造医学研究所所長の吉田勧持先生の教育講演と会員発表、総括講演を予定しています。

ご参加を心よりお待ちしております。尚、早期登録割引は7月末まで延長となっております。

本大会は日歯生涯研修事業認定研修会です。日歯研修カードをお忘れ無く。

開催に寄せて

伊藤 学而

鹿児島大学名誉教授

何年前だったか、直立歯科医学研究大会が熊本市で開催された時、“直立歯科医学”という用語が気になって出かけたことがありました。そこで始めて臼井五郎先生の特別講演を聴きましたが、難解な用語は兎も角として、講演の筋道は至ってシンプルで違和感もなく、ヒヨットシテそういうことかもしれない、と感じたことを覚えております。

私は鹿児島大学歯学部を定年退官後、請われて“GPのための矯正カンファランス”を東京と札幌で始めることになりました。そこで峰村久憲先生と知り合い、成人ならぬ老人症例についても話し合っている内に、この“直立歯科医学”という言葉を再び聞くようになりました。そんなある日、峰村先生から、動的平衡・顎口腔医学研究会編著の“図説 直立動態と心身症状”の新刊が突然に送られて来たのです。

この本は従来の歯科学書と比べて趣がかなり異なり、動的平衡咬合理論という難解な用語を掲げていました。但し用語は難解でも、「人類は直立二足歩行している」、「人体は常に揺れ、揺れることによって立っています」と書かれていて、これに立脚すれば、今後どのようなステップを辿ってどのような治療方針が導かれることになるのか、正直言って興味津津ではないかと感じたものです。

処で、私がまだ鹿児島大学に勤務していた頃、矯正科の外来から呼ばれて患者さんを診に行くことがしばしばありました。多くの場合、患者さんは既に診療台に掛けていて、しかも背もたれは斜め後ろに倒れていることが多くて、患者さんの顔貌も下顎位も、十分に把握が出来ないことが多かったのです。そんな場合には、「悪いけど背もたれを起して下さい」とか、「ちょっと診療台を降りて立ってみて下さい」とお願いをすることがしばしばありました。

するとそれだけのことで、「あ、この患者さんはこんな顔つきの人なのか」とか、「こんな体格の人だったのか」ということが容易に分かり、顔面の軟組織はもとより、下顎位や口唇の状況なども、局所だけの問題ではなく全身とのかかわりで充分に把握することができたのです。

その上で検査結果を見直したり、治療方針のポイントを指摘すれば、より効果的な治療方針が立てやすいことが分かったのです。

処でヒトの祖先は、アフリカのサルの仲間であったと考えられております。それが恐らくは気候変動のあおりをくらって木から降りて草原で生きざるを得なくなり、結果として二足歩行を身に着けたと考えられております。その利点として、視野が広がるとともに、従来の前足の機能が格段に高まって微妙な操作もできる“手”になったことが指摘されています。

それであれば、ヒトの顔面頭蓋を分析するときの原点は、従来の視線を水平にしたときの“トルコ鞍の中点”に置くよりも、直立したときの“踝(くるぶし)の中点”に置けば、全身の力学的なバランスについて、より有効な評価ができる可能性がありそうです。

従来、顎顔面の機能と形態との関係を分析するとき、その基点として、脳頭蓋と顔面頭蓋の接点で比較的安定した部位(例えばトルコ鞍の中点)が用いられてきました。しかし、全身の傾斜や屈曲なども含めて新たな解析を加えるとなれば、例えば前方頭位(いわゆる猫背)などの問題点だけでなく、それに伴う下顎の後下方回転等も見過ごされることのない分析が求められることでしょう。

略歴

経歴

昭和32年 金沢大学教育学部附属高等学校卒業

昭和38年 東京医科歯科大学歯学部卒業

昭和42年 東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)

東京医科歯科大学歯学部歯科矯正学講座助手

昭和43年 東北大学歯学部附属病院矯正科講師

昭和45年 東北大学歯学部歯科矯正学講座助教授

昭和49年~昭和50年 米国ランカスター口唇口蓋裂研究所研究員

昭和53年 鹿児島大学歯学部歯科矯正学講座教授

平成 8年~平成12年 鹿児島大学評議員

平成12年~平成14年 鹿児島大学歯学部附属病院長

平成15年~ 日本学術会議会員

平成16年 鹿児島大学退官(名誉教授)

主な学会活動

日本矯正歯科学会:会長(平成7年~10年),名誉会員(平成16年~)

日本口腔科学会:理事(平成7年~平成14年),名誉会員(平成16年~)

日本顎関節学会:理事(平成14年~)

World Federation of Orthodontists:Director(平成7年~平成10年)

Asian Pacific Orthodontic Society:President(平成 13年~平成14年)

受賞

日本矯正歯科学会 学会賞(平成16年)

主な公的委員会

鹿児島口腔保健協会 理事(昭和55年~平成15年)

厚生労働省 歯科医師国家試験委員長(平成 14年)

日本学術振興会 特別研究員等審査会専門委員(平成15年~)

吉田 勧持

日本構造医学研究所

今回、教育講演を依頼され本題を「ヒト生命現象の平衡問題」として講演することとなりました。

この題は、なかなか掴みどころのないものと思われますが、本題の主旨は生命物理学ならびに生物物理学、そして進化生物学の立場から医学とりわけ歯科医学の世界に踏み込む試みとしてお話ししてみたいと思います。

まず私が臨床に就いた35年前に、歯科分野のことは毛頭何も解らぬ状態で対応せねばならない事が発生しました。そのうち、運動器障害を担当する分野として散見して見られる顎機能障害と対峙する機会が徐々に増えてゆくのを実感する日々が続きました。

とりわけ、顎の開閉に対する問題の提起や、言われなき顎口腔周辺部の疼痛など様々な問題の存在を知りました。私は、解剖学教室出身でもありますので、この辺りの問題を解剖機能的立場で捉えようと試みました。縁あって従業員の立場で歯科技工士・歯科衛生士等が入職してまいりましたので、それらの者達から各種の簡単なる書籍等を貰い、そこから独学にて勉強してまいりました、段々とステージアップし、歯科医師の教書ならびに歯科医学会における各種論文、それに加え歯科医学の誕生までの歴史と、それらが解決できていない問題点を見出すこととなりました。

歯科は、口腔印象等、形の科学としての視座から他の医学の分野に比して明瞭なる形態の変化を読み取ることが出来る分野であることも分かりました。

しかしながら、残念なことに歯科の先人達のその研究がほとんど中座した形となっており、その後を引き継いだ追認的研究が全く為されてないことにも気付きました。

私としては、物理学を専攻した人間として、至極残念であり、何とか引き継ぐことで歯科界の持つ問題を一つでも二つでも解決できないかと思う日が悶々と続きました。

幸いなことに、私の下に勉強に来られた多くの医師・歯科医師、その他東洋系医療実施者の方々から多くの情報を頂き、多角的視点でこの様な歯科的問題を解く方向性を見出すことが出来ました。それは、発生学的・進化学的立場だけではなく、機構解剖学的・生物学的立場からアプローチし、その本質を知ることが大切だと分かったからです。

そして、この頃には歯科界の重要な視点の欠落部分が見えてきたからです。それは、ヒト顎が持つ生物学的意味が理解出来ていない、このことによって、この分野の持つ医学的評価が十分に高められていないことでした。本講演の中で、その一端である生物学的意味を咀嚼行為以外の立場で、平衡機能の上から概説してみたいと思います。

さらに、三十年程前にひとつの疑問が同時に私の中で起こりました。それは人が長い時間をかけて進化し現在に至る過程で、共生体として多くの細菌や原虫あるいはウィルスといった類の生命・類生命体と、生命活動を共有している訳ですが、この不可欠な共生体との関係が顎口腔系ならびに皮膚の二つの経路を主としてしか、中核的なものは受け入れていないとの現実に立ったことでした。一般歯科医が考える齲歯や歯周病といった目線からだけの各種菌体との問題を、病的因子としてのみ捉えるとした考え方に大きく疑問を持ち、このことについては歯科学会や各種歯科研究会ならびに歯科医師会等の招請講演会で、都度都度にお話しをさせて頂き、口腔解剖と咽頭扁桃の構造からして菌体受容の関門が、この様な場所に存在している所以が、後にヒトの全体免疫の70%にも効果しているとする腸内菌叢、つまり腸内フローラの形成など一生を通して生命活動にとって不可欠な存在として影響し続けるその提供の場であるという事実をお知らせし、その後に現在に至る幾つかの心疾患・肺疾患など病態発現メカニズムの解明に寄与した可能性があることです。

さらに、歯科医師の皆様の要請で著した「構造医学 解析I」では、顎口腔系とともに機構的平衡系を為す仙腸関節ウェイトベアリングの問題に一つの解をもたらしました。また、このテーマと取り組む前に提起された矯正歯科の生理学的役割について熟考をせざるを得なくなり、それまで米国や英国等で行われてきた主旨を鑑みる時、それが余りにも人社会生活における審美的問題に重点を置きすぎていた為に起こるであろうヒト形成上の問題点にも言及せざるを得なくなりました。そして数多くの自然人類学的形態の計測値と、その演繹学的解析から、ヒト顎の形成された物理数学的解明をしつつ、それによって形成され得る脳の肥大要素の許容ならびに精神表現行動への影響等、多彩な問題点の潜在性に気づき、これらを積極的に矯正歯科の先生方へ発信してまいりました。

現在ではこの主旨を受け取り、そして臨床の中で十分に編み込み、そこから生まれた概念を世界に発信する先生方も少数ではありますが、生まれてきていることは幸いだと考えております。

なぜならば、馬蹄形の持つ歯列弓の本質的形成の意味が、その他の補綴分野や保存科における咬合や、咬合平面の理解の問題等に連なる問題点を提起しており、これらの視座は顎口腔系の持つ役割として今からさらに大きな発展提起をしていくことと思われます。

この様に考えますと、歯科口腔医学は単なる医学の限定的小一分野ではなく、ヒト生物活動のほぼ三領分の一角を成す巨大な活動分野であることが判明したのです。

私はそれを「補食・移動・生殖」と呼び、動物の三大生理要素と位置付けております。

この様な視座の中から、はじめて歯科医学が正当の評価の舞台に乗るものと考えており、今回のこの研究大会が、その重要な課題を担って発会されるものと信じております。

ここに記した案件は、歯科が口腔系を通して社会と交通する中にあって、一つの社会対比の中での重要度としての平衡問題、口腔を通して内界に共生体を送り、その後の人生での相価性においての平衡問題、機構的平衡問題などなど、さまざまな問題が非線形かつ複雑な散逸事象としての均衡性を有している上において、どうしても総体的平衡問題として捉えて行かなくてはならないと考える次第であります。

略歴

1954年 熊本生まれ

物理学者としてNASA(米国航空宇宙)の高エネルギー研究に携わる

理学博士

医学博士(PhD.“Biomedical Science Doctor”)

PhD.“Doctor of Science”(生物物理学)

日本構造医学研究所 所長

構造医学研究財団 主幹

日本構造医学会 会長

地球環境問題医療者会議(日医協) 議長

著書・論文

構造医学セミナー教書(構医研編)

構造医学の原理(産学社エンタプライズ)

構造医学の臨床(同上)

構造医学解析I(同上)

構造医学 ~自然治癒のカギは重力にある~(同上)

歩行と脳(同上)

季刊 構造医学 総監修

抄録

臼井 五郎

顎口腔臨床センター

歯が壊れるしくみ 体が崩れるしくみ

現代歯科医学において未明な「咬合(歯牙)と全身症状の具体的関係」を突き止めるためには、「ヒト直立における基本動態」まで遡って考察する必要があると考えてから既に多くの時間が経ちました。直立動態における上顎(上部頭蓋)と下顎の運動軌跡は「ヒトに共通する運動軌跡」に加え、「ヒトそれぞれ個別に異なる運動軌跡」の解析まで行いはじめて臨床応用が可能となります。ヒトそれぞれに運動軌跡が異なるのですから、この時点で局部歯科医学とは少し趣が異なる学術となります。

個別の運動軌跡の解析に基づき、徒手にて上下顎の歯列模型をクルクルっとスウィングさせてみると、「ヒト直立における咬合干渉部位」をあぶりだすことが出来ます。この演繹解析に基づくスウィング干渉部位は、上部頭蓋と下顎骨のリズミカルな直立平衡を崩し、それにより全身バランス、全身症状へ波及していくことは想像に難くないと思います。

一方、その「スウィング干渉部位と一般歯科的な主訴や臨床症状の関係性」を、歯科外来にて毎日、ほぼ全員に、何年も検証をし続けてきました。その結果判明した事実は、それまで微生物学的な破壊現象として理解してきた各種歯科現象は、このスウィング干渉が主原因であったことがわかりました。つまり日常の直立平衡において咬合干渉が発生、存在していたのです。それは「最も根底にある破壊原因」の発見です。

これは今までの延長上にある新しい知見ではなく、「既存の歯科医学や医学の根底を揺るがす臨床的発見」と考えられるため、局部歯科医学とは異なる枠組みの【直立歯科医学】を提唱しました。(2015)

第1回の軽井沢講演(2009)から数えて今回で11回目を迎えます。その間、ご賛同いただける臨床歯科医の先生方も徐々に増え、動研から直研へ、今回から【直立歯科医学研究大会】として東京医科歯科大学にて記念大会が開催されます。演者は冒頭の直立歯科医学概論と、最後の総括講演を担当致します。歯科臨床において原因不明や対応困難であった事例に対する具体的解決策として、なるべくわかりやすく解説できればと考えております。

直立歯科医学は、個体発生(ライフステージ)における直立バランスの変遷も視野に入れた学術です。それらは胎児期、新生児期、乳幼児期、小児成長発育期、成人期、壮年期、高齢期と、一連の流れとその対応策です。個別のステージにおいてはそれぞれのスペシャリストの先生方にご解説いただきます。また、それぞれの実践研修は【直研フォローアップセミナー】を設けておりますので、そちらの方も是非ご参加ください。

略歴

1967年静岡県富士市生まれ

1991年日本大学歯学部 卒業

1994年東京女子医科大学附属病院 歯科口腔外科退局

1998年静岡県富士市にて歯科医院開設(図書館前歯科)

2001年日本咬合学会入会 (2003~09年講演)

2002年日本構造医学会入会

2003年顎口腔臨床センター開設

2003年解明された「人」と「病」の正体 出版

2007年カラー図説 直立機構と発病のメカニズム ~「人」と「病」の正体を解明する~ エンタプライズ出版

2007年日本咬合学会 学識委員長

2007年第12回 日本構造医学会 東京学術会議(学士会館)にて講演

演題:直立機構と発病の関係 ~自然治癒のカギは重力にあった~

2008年第18回 日本全身咬合学会(日歯大新潟)シンポジウムにて講演

演題:歯科臨床から見た姿勢制御における下顎位の重要性

2009年動的平衡対応・咬合医療の確立  (日本咬合学会退会)

2013年図説 直立動態と心身症状 ~人の立つしくみに内在する病因の発見と臨床応用~ エンタプライズ出版

岩前 里子

さとこデンタルクリニック
(埼玉県神川町開業)

熊谷 倫恵

熊谷歯科医院
(札幌市開業)

胎児期脊椎CカーブからSカーブ獲得ステージの直立歯科医学

現在3歳児の8割が齲蝕の経験のないノンカリエスを達成していますが、臨床の場では発育空隙の喪失、乳歯列の叢生や重度の過蓋咬合、口唇閉鎖力の低下や口呼吸等の機能低下を疑わせる形態不良に遭遇します。また健常児でも食べられない、飲み込めないという相談事例、いびき、小児睡眠時無呼吸症候群の増加報告に演者は危機感を覚えこの問題の解決に取り組むべく、出生後早い時期から乳児の口腔内模型を採得しながら支援をしてきました。乳児の顎の発育や行動の発達、生活背景などの継時的観察により興味深い知見が得られてきました。頭蓋の変形が強い児は顔貌の非対称はもちろん、顎の変形及び下顎の変位や舌小帯の緊張、頸や身体のねじれ全身の筋緊張の左右差が多く、直立バランス不全を伴っていました。またバランス不全は不正咬合や力による齲蝕の誘因になりうることが推察されました。本講演前半ではこれらを症例提示しながら解説、またそのアプローチについてお話したいと思います。

後半はバランス不全(スウィング不全)の子供に対して直立姿勢を歯科的に整える介入(スウィングコントロール)の臨床報告を行います。直立姿勢が安定することにより、不正咬合の改善はもとより、歯の萌出方向の変化を認めました。また全身状態や生活の質の向上が認められました。

ヒトは胎芽期5週目ごろに背中を丸めたCカーブの姿勢へと移行し出生します。乳児は重力下で定頸やお座り、はいはいと行動の発育によってCカーブから次第に腰椎のS字カーブを獲得し、直立二足歩行のヒトへと成長していきます。このめまぐるしい子どもたちの成長過程、つまり直立維持の機能獲得ステージにおいて、質の高い機能とそれを保障する形態の獲得はその後の良好な成長発育にアドバンテージになります。そしてこのアドバンテージは健康寿命の延伸につながることでしょう。ライフステージ早期(胎児期脊椎Cカーブから腰椎Sカーブ獲得)からの直立歯科医学の価値あるサポートを提案いたします。

略歴

岩前 里子

H2 明海大学歯学部卒

明海大学第二口腔外科医局入局

H5 群馬県島田記念病院歯科口腔外科出向

H10 埼玉県児玉郡神川町 さとこデンタルクリニック開業現在にいたる。

日本小児歯科学会会員 顎顔面口腔育成研究会会員

熊谷 倫恵

1965年 札幌市生まれ

1989年 北海道大学歯学部卒業 北海道大学附属病院歯科麻酔科入局

1993年 日本歯科麻酔学会認定医取得

1996年 (医)熊谷歯科医院勤務

2006年 父から理事長を引き継ぎ現在に至る

寺尾 公成

てらお歯科医院
(長野県北佐久郡軽井沢町 開業)

咀嚼の出来るスプリント:MDA(masticated dynamic balance appliance)

咀嚼運動がどのように行われているのか知る歯科医師は少ないかもしれません。効率よく咀嚼出来る理想的な動きが有りますが、残念ながら歯科界に広く知れ渡ってはいないようです。歯科医師自身が快適な咀嚼運動を知らない限り患者さんにその重要性を伝え施術することは不可能でしょう。それを知るためにMDAと名付けたスプリントを用いて咀嚼体験をすることをお勧めしたいと思います。

私がこの装置を作製し理想的に動く咬合面やあらゆる咬合形態を体験した結果、今まで良いとされてきた犬歯誘導が噛みにくい事、前歯の干渉が意外と多い事、頬や舌を噛む理由などが分ってきました。またスウィング干渉の体験キーパーロスの体験から体調との関係も体験出来ました。

偏咀嚼の害は歯科医師なら誰もが知る処です。私が咀嚼運動を理解出来て一番良かったと思うことは、噛みにくい側を噛み易くすることで偏咀嚼を止めさせることが出来る様になったことです。その結果体調改善する患者さんを数多く経験しています。その噛み易くするリシェイピング(RS)を「3本一緒の法則」と名付け調整の基本としていますがそのままスウィングのRSにも当てはまります。理由はスウィングに上下の動きを加えたものが咀嚼運動だからです。

咀嚼運動は知識として理解しても体験しないと納得出来ないことが多いためMDAの体験が必要だと思います。自ら体験しない限りなかなか自信をもって咀嚼のRSを施せるようにはなれません。又、MDAは歯科医師が咀嚼体験出来る装置としてのみ使うだけでなく、スウィング干渉・キーパーロスが著しくそれが原因で直立を保持することが難しい患者さんに対し、補綴・矯正を行わず簡便な治療用装置となる可能性も秘めています。是非MDAを体験しご自分で様々な咬合を検証して頂きたいと思います。

略歴

1949年 東京都小平市生まれ

1950年 長野県軽井沢町に移住

1973年 神奈川大学経済学部卒業

1984年 鹿児島大学歯学部卒業

1984年 宮崎県市来歯科医院勤務

1988年 てらお歯科医院開設

2010年 動的平衡・顎口腔医学研究会第2代会長

宮路 秀則

歯科技工士

咀嚼運動をマスターする咬合器

現昨年、先生方のご指導の下、咬合器「Swing master Articulator HM type I」を世に出すことが出来ました。

既存の静的平衡咬合理論(人体局部の歯科医学)とは異なる、ヒト本来の直立動態を解析した直立平衡咬合理論(スウィング理論)に対応した診断と技工の汎用咬合器です。

この type I、使用にあたっては、上下顎のスウィング現象に関する知識が必須となりますが、この理論に接する前に咀嚼運動が理解出来ていないと咬合器の動かし方(ハンドリング)を含めて使いこなすことが出来ません。

摂食時には限界運動と異なる軌跡の咀嚼運動をしているにも拘わらず、歯科大学や技工学校では言葉と解説がある程度です。臨床では限界運動が主であり、それに基づいて技工物が作られ、口腔内で調整されているのが現状です。ですから、この咀嚼運動に接していない初心者には下顎がどのような軌道で動くのか、咬合器ハンドリング習得が大きな壁となっています。

type I含めフリーハンドで咀嚼運動が出来る自由運動咬合器はごく僅かに存在していますが、咀嚼運動が機構として組み込まれた物は存在しません。

ならばどうしたら咀嚼運動を咬合器で再現出来るのか、そして基本となる咀嚼運動軌道ハンドリングを習得して頂けるのか。

type Iに新たなギミックを追加して、ガイドテーブルと合わせて上記の課題に取り組んだ咬合器を発表させて頂きます。

略歴

1965年 生まれも育ちも宮崎人 ♂
S58 宮崎工業高等学校卒
京セラ株式会社入社(鹿児島) 川内工場 サーマルヘッド基板製作 生産管理部
国分工場転勤 サブストレート基板製造
S63 退社
H1 宮崎歯科技術専門学校入学
H3 同校卒
宮路歯科医院勤務
H20~23 日本咬合学会 在籍
(H22 4D products設立)
H23 動的平衡顎口腔医学研究会
H25 動研専属技工士 拝命
H25 現在に至る

香川 正之

香川矯正歯科医院
(大阪府吹田市開業)

スウィング矯正、その基礎と臨床

マルチブラケット装置は唇舌側共にストレートワイヤーシステムの開発が進み、より一層、単純化されて歯科医師であれば、すぐに矯正治療を行えるのではと思わせる時代になってきました。しかしながら、どのように進歩発展しようともアーチワイヤーベンディングの習熟とマルチブラケット装置のフォースメカニズムの理解と共に、顎位診断、特にスウィング理論に基づく顎位診断を行って、最善かつ適正な顎位の改善と歯牙移動を行うことが肝要です。

矯正診断あるいは治療で考慮すべき要点は、成長期ではスケルタル パターンがハイアングルかアベレージアングルかローアングルかを分析して成長コントロールか外科矯正かを診断し、成人期もスケルタル パターンを分析して矯正治療のみか外科矯正かを診断することです。デンチャー パターンではALDやスピーカーブ等を計測して抜歯か非抜歯かを診断します。近年は矯正用スクリューアンカーを埋入することで、非外科的に矯正治療のみで、あるいは非抜歯で咬合の改善を行える適用範囲が広がってきています。

顎位診断では全身からみた下顎位、いわゆる上下の傾き(ピッチング)、左右の傾き(ローリング)、軸の軸回り運動(ヨーイング)を三次元的に診断します。次に上下顎、上下歯列をどのように移動あるいは位置変化をさせるとスウィング干渉がなく適正な直立バランス、すなわち重力バランスが図られるかを分析、診断して、本来、向かわせるべき下顎の移動動態を制限あるいは阻害させないメカニズムの矯正治療を行います。特にスウィング干渉を生じやすい上下第二大臼歯の咬合関係においてはスウィングリリースの構築に留意します。更に上下咬合平面の前後的、左右的傾斜を変化させて三次元的バランスを図り、固有スウィングが獲得されると全身に対して良好な咬合関係や健康回復が得られるようになります。例えば下顎が前下がりの症例では前上がりさせる下顎歯列の移動動態を生じさせる三次元的矯正治療を行います。すなわち、スウィング理論を取り入れた一人ひとりの骨格、歯、咬合を改善するオーダーメイドの矯正歯科治療を行うことが重要なのです。

私は以前より自然発生的にスウィング理論をかなり取り入れた矯正臨床を行っており、近年このような理論に基づいた矯正治療を「スウィング矯正」と名付けました。今回はスウィング矯正を行った主として成人期の様々な臨床例を報告いたします。

略歴

1949年 香川県琴平町生まれ

1975年 大阪歯科大学卒業 矯正学講座入局

1979年 香川矯正歯科医院開設 現在に至る

1990年 歯学博士取得

1990年 日本矯正歯科学会指導医・認定医取得

1993年 大阪歯科大学歯科矯正学講座嘱託指導医 現在に至る

2006年 世界舌側矯正歯科学会(WSLO)認定医・正会員

2006年 日本矯正歯科学会専門医取得

松井 啓祐

中津歯科クリニック
(大阪府大阪市開業)

成人期の臨床 DS治療について

DS治療とはスウィング理論に基づいた、Dynamic balance control appliance Soft type(以降DSと略す)を用いた咬合治療です。

DSの使用とスウィング干渉を取り除く事で、直立姿勢が改善し、直立平衡も保ち易くなります。

そして、結果として様々な不定愁訴を緩和、解消する事が可能となります。

私のDS治療を受けられた方々の不定愁訴は様々ですが、多くの方が3カ月程度の治療期間で症状が改善し、健康を取り戻し、治療を終えていきます。

DS治療を受けられた方の中には、不定愁訴の原因が咬合にあるとは分からずに、病院等で様々な治療を何年も続けていた方が大勢おられます。そのような方々は、今迄は全然改善しなかった症状が、短期間で改善してしまう事に大変驚いておられます。

患者の年齢や性別は様々ですが、結果的に皆同じように改善していきます。

一般的に咬合治療というと全顎的な補綴や歯列矯正等を伴ったものと考えがちですが、

スウィング理論に基づいたDS治療は、大掛かりな補綴や歯列矯正を必要とせず、短期間、小侵襲で症状改善が図れます。

この歯科医師と患者の双方にとって負担が少なく、治療効果の高いDS治療を、今回は私のクリニックで行っている治療例を通して提示いたします。

略歴

1969年 大阪府高槻市生まれ

1994年 大阪歯科大学卒業

1994年 医療法人愛環会勤務

2005年 中津歯科クリニック開設 現在に至る

峰村 久憲

峰村歯科医院
(北海道)

高齢期…仙腸関節の固着化に伴う病態と義歯の臨床

歯科界は近年高齢社会を迎えて、社会に広く義歯の効用を説くようになりました。しかしながら、依然として義歯の全身に対する効用は、よく噛めることによる低栄養の回避や、咀嚼による脳や隣接器官に対する賦活作用としての説明しかありません。栄養の摂取と認知症対策ということです。それらももちろん大切なことですが、とても重要な効用がすっぽり抜けているように感じます。

顎口腔系は頭位を保ち直立平衡を司っているのです。分かりやすく一言でいうならば、

「入れ歯は、頭を支えている」

ということを、私の臨床例を用いて説明したいと考えております。

人の直立平衡は2重ヤジロベエ構造になっていて、主に下顎と骨盤の仙腸関節の2階建ての機構平衡器によってコントロールされています。老化による仙腸関節の機能低下によって、高齢者の直立平衡制御は下顎の比重が増してきます。ですから、歯科の役割がより重要になってきます。義歯においては、スウィング干渉のない配列と粘膜による緩衝によって、高齢者にとっては天然歯に引けを取らない健康保持・増進が可能になると考えています。

よく調製された義歯では良い頭位になるので、直立重心が改善し姿勢を保ち、健康寿命の延伸に寄与することができます。

義歯の臨床に役立つスウィング現象の診査法と、義歯の維持管理についても説明します。

それらが不足していたために、歯科の価値が社会に適切に評価されていなかったのではないかと思われます。

総義歯の咬合採得と配列にスウィング現象の知見を取り入れることにより、装着時の咬合調整がほとんど要らなくなりました。そのきわめて簡便な術式も公開します。

略歴

1950年 北海道天塩郡生まれ

1975年 神奈川歯科大学卒業

同年母が開設していた峰村歯科医院に勤務し、その後継承、現在に至る。

症例紹介

吉田 和生

広島県尾道市開業
【症例1】小学2年生男児「銀歯が取れた」

他院での左上Dのインレー脱離で来院。窩洞が浅かったためと判断して、形成し直して新製してセットしたところ、1週間後に外れてきた。おかしいと思い、スタディモデルでかみあわせをチェック。立たせてみると、頭はフラフラ、からだはモゾモゾ。1秒たりともじっとしていられない。首を触診すると、しこりがあって痛がる。3カ所リシェイピングして、首の張りも取れ、じっと立っていられるようになった。次回来院時母親曰く「帰って来たら落ち着いていたからビックリしました。まさか歯が関係していたとは…。生まれた時からアトピーで、食べ物に気をつけていたら治まっていたんですが、疲れやストレスがあると痒がるんです。首を触るとコリコリしてて痛がるので、何だろうなあと思っていました。」この子の場合、首のコリが顕著であり、
 咬合由来の頭のバランス不全→首捻り→脳の血流不全
がアトピーの原因の一つと推測される。

【症例2】46歳男性「左下の奥歯が痛くてかめない」

左下6番は根分岐部病変。下顎左右7番は既に喪失。歯周初期治療と並行して、顎と頭の揺れを妨げる干渉部位を4回にわたってリシェイピング。1ヶ月半後、「ずっと重い感じだったのがほとんど痛くない。かめる」首の張りも改善。

【症例3】81歳男性「左下奥歯がしみる」

左下は⑤6⑦ブリッジ。7番は生活歯、カリエスも歯周ポケットもなく、歯根の露出も見られない。 立位にて下顎の傾きと体軸からのずれを診断、スタディモデル上で上下顎の揺れをシミュレーションをして干渉部位を確認、《リシェイピング+確認のための印象》を繰り返す。徐々に症状は軽くなるとともに、首右側の張りが顕著に改善。通院回数3回。

患者さんの訴えを裏付ける所見がない、という経験はありませんか?咬合紙では検出できない、中心咬合位でも側方運動でも発見できない《ある種の咬合干渉》を見落としているせいかもしれません。第11回直立歯科医学研究大会では、〝ヒトの立つ仕組みを踏まえた歯科医療〟という観点から、ライフステージごとの対応について講演いたします。

下向 央

千葉市 央歯科医院

習慣性顎関節亜脱臼症例

患者は17歳の女子高校生、「1年半前からあくびや大きく口を開けるとあごが外れたようになり、しばらくすると戻るが1日中戻らないこともある」との主訴で来院しました。

いわゆる顎関節症状の顎関節痛、開口障害、関節雑音は認められず、筋・顎関節の触診で圧痛もありません。口腔内を見ると歯列はU字型、習慣性咬合位での静的咬合は緊密なI級関係であたかも矯正治療をしたかのように歯列咬合は整っています。

模型を見ると咬合面は隆線がはっきりしていて咬頭内斜面の傾斜は急に見えます。右下7番がやや舌側傾斜、左下7番が若干挺出しています。

「硬いものを食べ続けた後であごが外れかかる」との患者の言から、咀嚼筋に過度な負担がかかりやすい咬合接触の存在が推測されます。また、顎関節パノラマ像で関節突起や下顎頭の形態に著しい異常は認められず、形態でなく機能上に亜脱臼の原因があると考え、以下の手順で平衡維持や咀嚼機能上の干渉を除去しました。

ヒトは固有の両顎の揺れ(スウィング)によって平衡維持をしています。その固有の揺れを掴むために立位にて顎位診断をします。両手に模型を持ち、顎位診断の結果を踏まえ、想定される揺れを模型上で再現します。干渉部位及び量を特定し、その結果を模型に印します。患者の歯の干渉部位にビニールフィルムを置き潤滑試験(デンタルトライボロジーテストDTT)をして検証をします。検証して「可」であれば患者の歯に印記します。干渉部を自然なカーブと相似形になるよう切削形成(リシェイピング)し研磨します。切削形成後、アプライドキネシオロジーやフットビューを使用して検証します。本症例では咀嚼経路をシロナソアナライザーで記録し、咀嚼経路を確認し、切削形成の参考にしました。

3回に分けて干渉部を切削形成した結果、顎関節の脱臼が皆無となり、患者には明るい笑顔と活気が出て患者共々喜び合えることができました。直立平衡歯科医療の成果であると思います、

臼井 五郎

顎口腔臨床センター

やっとわかった!【不定歯痛】や【不定愁訴】の発症メカニズム

歯科における【不定歯痛】や、他科における【不定愁訴】は器質的現象として視認できない訴えのため、多くが「原因不明」や「心因性」とされ、患者サイドや医療サイドは長らく、その対応に苦慮してきました。近年の歯科臨床における「咬合と全身症状の関係解明」において、そもそもヒトは「ゆらゆら揺れて立っている」という2足直立の根本に立ち返ると、【不定歯痛】とは不安定な直立バランスにおいて「あちこちの歯がぶつかってる現象」であり、【不定愁訴】とは不安定な直立バランスに伴う多彩な心身症状であることが判明しました。

Case1 37歳女性 主訴:歯科症状と連関する長期体調不良(吐き気)

紹介で来院された患者さんからの問診によると「歯の症状と体調不良」は10歳代から既に生じていたとのことです。初発症状は「あちこちの歯が痛い!」というもので、どこの歯科医院を受診しても「虫歯は無い」と原因不明でした。いわゆる【不定歯痛】の状態のあと、更に知覚過敏、初期齲蝕等が多発しはじめ、原因不明の歯痛に対しては抜髄、更には抜歯に至る経過を辿ってきました。時には「心因性」の診断のもと薬物療法を受けましたが、更にふらふらになってしまったそうです。通常の歯科外来では歯痛の訴えに対して、齲窩などの器質的破壊部位を探し、確認できた際は修復処置や根管治療が行われます。視認できない際は、原因不明や心因性とする傾向があります。しかしよくよく考えると、ヒトは「ふらふらバランスして立って生きている動物」であり、頭から吊るされブランコのようにブラブラしている下顎骨と下顎歯牙は、対合歯の上顎歯牙と、あちこちぶつかってもおかしくはありません。骨格バランスや小脳機能との関係性において、「あちこちの歯が痛い!」となるわけです。逆に歯がぶつかると(スウィング干渉)、更に立つバランスは崩れていきます。

Case2 35歳男性 主訴:首が絞められるような辛さを解消したい

20歳前後から生じ始めた「首の調子の悪さ」や「全身の体調不良」に対し、あらゆる代替医療系の施術を受けてきたがなかなか改善が見られなかったようです。咬合医療の実例集に見る症状群と、自身に生じている辛い症状の多くが同じであることから、かみ合わせ治療を希望されて来院されました。通法に従い「頭を起こすマウスピース治療」がはじまりましたが、当症例のスウィング干渉部位にあたる下顎前歯唇面にラミネートべニアが薄く施されているのに気付いたのはしばらくしてからでした。聞くところによると、10代後半にて【歯がきれいになる】と勧められるがままに接着したそうです。

頭から吊るされブランコのようにブラブラしている下顎骨と下顎歯牙は、立って歩いているときの動きとそのスウィングする範囲との関係性において、通常は上顎歯牙と絶妙な位置関係を保っています。歯列不正や全体バランスの関係において過剰干渉(スウィング干渉)が持続する際は、歯科的な愁訴や、直立バランス不全に伴う多彩な愁訴が生じてきます。頭と顎のスウィングを診査診断し、スウィング干渉を取り除くスウィング医療は、原因不明や心因性と片付けられてきた各種愁訴に対する歯科的対応術であり、これからの時代における「歯科臨床の基本診断」です。

峰村 久憲

峰村歯科医院
(北海道)

「心因性インプラント不耐症」に関連して

「心因性インプラント不耐症」という症候名があるようです。それに類似する症例を2例提示します。一見すると不可解な訴えで、まさに心因性のように思えるのですが、咬合調整で解消しました。これまで知られていなかった、安静位における咬合干渉(スウィング干渉)の除去の結果です。

ケース1

娘の診療所に来た「インプラントを抜いてほしい」と訴える50代の白人患者。右下の7のインプラントの歯ぐきが気になってたまらないので、これまで4軒の歯医者に行ったが、3軒は問題ないと言われて断られた。もう1軒は、「あなたがそう言うのなら抜いて差し上げましょう。」と言われたが、不安になったのでここに来てみたと言います。

娘に相談されて、スウィング干渉があると思われる右上7の頬側咬頭内斜面の外側寄りを削るように指示しました。咬頭嵌合位では咬んでいない部分です。翌日患者は、「30歳若返った。爽快な気分だ。」と、礼を言ったそうです。

ケース2

次は私の症例です。7~8年前に左下67をインプラント補綴して問題なかったのですが、1年前に紫斑病になった前後からひどい肩こりとインプラントの違和感に悩まされたそうです。ステロイド剤の満月様顔貌にもなったので、そのせいだろうと我慢していたそうなのですが、病気はすっかり治ったのだが、ひどい肩こりとインプラントの違和感だけが頑固に取れないと来院しました。

あらためてそのインプラント補綴を見ると、左上の7が歯列の中でわずかに外側にあり、それにしっかり咬むように左下7が少し張り出した配列になっていました。頭は首の上でバランスを保っていて、頭が傾いた時には歯で支える仕組みになっています。ところが、頭を支えるべく下顎が頭の傾いた方向に移動した時に、咬頭嵌合位や限界運動時には干渉しなかった左下7の頬面が干渉する配列でした。このような日常生活での頭とあごの揺れに伴う干渉をスウィング干渉といいます。当時は、スウィング現象の解析がまだ途上で、今から見るとかなりスウィング干渉している上部構造でした。そこで、咬合面は触らず、頭が横倒れになった時に干渉する左下7の頬面を咬合調整したところ、即座に肩こりは解消し、インプラントに対する耐えがたい違和感も収まりました。

インプラントのスウィング干渉の問題は、徐々に体に応えてきて、終には一時も耐えられなくなるようです。加齢や体調の変化が不快症状の発言と係わってもいるようです。ケース1も、補綴後数年は経過していると思われます。インプラントの臨床をトラブル無く行うには、日常生活の大部分を占める安静位での頭とあごのスウィング現象を理解することが必要です。

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